「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第一》 子供のごときは


画/吉崎正巳


 吾輩がこの家へ住みこんだ当時は、主人以外のものには、はなはだ不人望であった。どこへ行ってもはねつけられて相手にしてくれ手がなかった。いかに珍重されなかったかは、今日(こんにち)に至るまで名前さえつけてくれないのでもわかる。吾輩はしかたがないから、できうる限り吾輩を入れてくれた主人のそばにいる事をつとめた。朝、主人が新聞を読むときは必ず彼の膝の上に乗る。彼が昼寝をするときは必ずその背中に乗る。これはあながち主人が好きという訳ではないが、別に構い手がなかったからやむをえんのである。その後いろいろ経験の上、朝は飯櫃(めしびつ)の上、夜はコタツの上、天気のよい昼は縁側へ寝る事とした。
 しかし一番心持ちのよいのは、夜にここのうちの子供の寝床へもぐりこんでいっしょに寝る事である。この子供というのは五つと三つで、夜になると二人が一つ床へ入って一間(ひとま)へ寝る。吾輩はいつでも彼らの中間に己を容(い)るべき余地を見いだして、どうにかこうにか割りこむのであるが、運悪く子供の一人が目を覚ますが最後、大変な事になる。子供は――ことに小さい方が質(たち)がわるい――「猫が来た猫が来た」と言って、夜中でもなんでも大きな声で泣き出すのである。すると例の神経胃弱性の主人は必ず目を覚まして次の部屋から飛び出してくる。現にせんだってなどはものさしで尻ぺたをひどく叩かれた。



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