「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第二》 第二、第三のはがき



 吾輩が主人の膝の上で目をねむりながらこのように考えていると、やがて下女が第二の絵ハガキを持ってきた。見ると活版で舶来の猫が四、五匹ずらりと行列して、ペンを握ったり書物を開いたり勉強をしている。そのうちの一匹は席を離れて机の角で西洋の猫じゃ猫じゃを躍っている。その上に日本の墨で「吾輩は猫である」と黒々とかいて、右のわきに『書を読むや おどるや猫の 春一日(はるひとひ)』という俳句さえしたためられてある。これは主人の旧門下生より来たので誰が見たって一見して意味がわかるはずであるのに、うかつな主人はまだ悟らないとみえて不思議そうに首をひねって、「はてな、今年は猫の年かな」と、ひとりごとを言った。吾輩がこれほど有名になったのをまだ気がつかずにいるとみえる。
 ところへ下女がまた第三のハガキを持ってくる。今度は絵ハガキではない。恭賀新年と書いて、かたわらに『恐縮ながら、かの猫へもよろしく御伝声願い上げ奉り候(そろ)』とある。いかに迂遠(うえん)な主人でも、こうあからさまに書いてあればわかるものとみえて、ようやく気がついたようにフンと言いながら吾輩の顔を見た。その目つきが今までとは違って多少尊敬の意を含んでいるように思われた。今まで世間から存在を認められなかった主人が、急に一個の新面目を施こしたのも、まったく吾輩のおかげだと思えば、このくらいの目つきは至当だろうと考える。


「猫じゃ猫じゃ」
文政11年頃に江戸で流行した俗謡で、明治初年に「猫じゃ猫じゃ」の替え歌ができて非常に流行し、踊りもできた。

猫じゃ猫じゃと おしゃますが(おっしゃいますが)
猫が 猫が杖ついて 絞りの浴衣で 来るものか
オッチョコチョイノチョイ オッチョコチョイノチョイ

下戸じゃ下戸じゃと おしゃますが
下戸が 一升樽かついで 前後もわからず 飲むものか
オッチョコチョイノチョイ オッチョコチョイノチョイ

蝶々蜻蛉や きりぎりす
山で 山でさえずるのは 松虫 鈴虫 くつわ虫
オッチョコチョイノチョイ オッチョコチョイノチョイ

※この場合の“猫”は芸者を表す俗語・隠語。“寝児”から転じているらしくツヤっぽい。また同性愛者の女役の意味もあり、こっちも別の意味でツヤっぽいね。中盤、猫を煮て食うというブッソウな多々良三平君が登場するが、猫鍋は昔“おしゃます鍋”と呼ばれたらしい。(J・KOYAMA)
第二章 CHAP.2 | permalink | comments(5) | - | - | - |
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この記事に対するコメント

J・KOYAMAさま
昨年、4月か5月ごろ、メールした事のあるミモザです。
2008.5.29にはわざわざこのサイトでご返事をいただきました。
覚えてくださってますか?
相変わらずの『猫』サイトの更新、素晴らしいですね!
どうやって、桑田佳祐の「音楽寅さん」に漱石の『猫』が出るなんていう情報を得られたのですか???
私も知っていたら、録画したんですのに・・・・残念!
KOYAMAさんの情報キャッチのチカラ、スゴイです!

さて昨日の8月22日(土)江戸東京博物館に行って来ました。
現在、館では「江戸東京ねこづくし」展をやっていて、22日、23日に俗曲「猫じゃ猫じゃ」を春風亭美由紀さんがやる、というのでそれを聴きたいがために出掛けたのです。
でも、曲は聴いた事があって、出来れば踊りの方を見たいな〜と思っていましたら、踊ってくれたんですよ〜! 感激! 別に私が頼んだわけじゃなくて初めから踊る予定だったようなんですけど。
「猫じゃ猫じゃ」の踊りが見られて嬉しかったです!

ところでKOYAMAさん、<第二の絵ハガキを持ってきた。見ると活版で舶来の猫が四、五匹ずらりと行列して、ペンを握ったり書物を開いたり勉強をしている。そのうちの一匹は席を離れて机の角で西洋の※猫じゃ猫じゃを躍っている。>―――この絵ハガキが実際にみつかった、ってご存知でした?
といっても、漱石が実際に貰ったハガキそのものではないんですけど、今年の3月9日の熊本日日新聞によると<二十世紀初頭の英国。猫の風刺画家ルイ・ウェインが描いた四匹が机で勉強している。別の一匹は踊っている。>消印は1903年の絵ハガキだそうで、ロンドン漱石博物館長の恒松氏が手に入れたそうです。新聞にはそのハガキも載っていましたけど、たぶん、漱石はこの絵ハガキを実際に見て、あの文章を書いたんだろうな〜と私も思いました。
この文章を読んだら、「猫じゃ猫じゃ」の踊りってどんなだろう?って知りたくなりますよねえ。
「猫じゃ猫じゃ」の踊りを見れて、満足でした!
江戸博の「ねこづくし」展では漱石の『吾輩は猫である』のコーナーもあって、集英社漱石全集の茨木杉風の挿絵の原画もかなり展示してあって、なかなか楽しかったですよ。
| 2009/08/23 11:18 PM
覚えていますとも、お久しぶりです。

100年の時を経てなお新たな発見があり、またネタにもなる「猫」世界。ファンが多いことの証左ですね。

ところでたった1年前ですが、舞台『ねこになった漱石』をご覧になる旨コメントがあったと思います。出来はどうだったのでしょうか ?
あの時の様子から、何かコメントを頂ける…と待ちわびつつも頂けず、気になったままずいぶん日が経っております。ここでは一般論は要りませんので、見巧者のミモザさんなりの評価をお聞かせ下さると幸いです。

…昨年来のコメントを読みますと、ミモザさんは資料もたくさん揃えておられるようですし、わたくし (J・KOYAMA) にはない知識・行動力もお持ちの様子。
そろそろミモザさんなりの漱石、あるいは「猫」世界をHPなりブログで開示・展開する時期が来ているのではないでしょうか。
もう準備をされているのかもしれませんね ?

同好の者として、ミモザさんフィルターを通したその世界を見に行ける日が来る事を、名古屋の地から願っております。
J・KOYAMA | 2009/08/24 10:06 PM
覚えていてくださったんですか?! 感激!
『ねこになった漱石』の事も覚えていらっしゃる?―――実に執念深い―――いや、記憶のいいお方ですね!(冗談です。私も漱石ヲタクの一人として、漱石関連の事に対しては実に執念深く忘れません。ほかの事はよ〜く忘れるんですけど・・・)
実はミュージカル『ねこになった漱石』は、私にとっては喜んで感想を書き込みたくなるようなモノではなかったんですよ〜。
それに、以前コメントを書き込もうとしたら、システムの加減か拒否されちゃった事もあったし―――で、勿論観には行ったんですが、感想を書き込まなかったのであります。スミマセン。―――言い訳がましかったですね。エヘヘ。
でも、気になっていらっしゃるようなので、一年前の記憶を思い出しながら書いてみます。
あのミュージカルは登場人物がほとんどネコになっていたような気がします。(確かその時カタログのようなものを買ったと思うんですけど、どこに仕舞ったのか今見つかりませんので、あやふやです。)それで『吾輩は猫である』とは殆ど関係なく、漱石の生涯をネコたちが辿る、といった劇だったと思います。
そうしてその内容が私から見ると、間違った漱石伝なんですよ〜。
それを観ているのが、ちょっと苦痛でした。
それは違うだろッ!とか心の中でツッコミを入れながら観ていました。(たとえば、覚えているのでは、若い金之助がコレラの流行する東京から嫂の登世と箱根に逃れアヤマチを・・・とか。―――オイオイ、って言いたくなりますよねえ。いくら江藤淳大先生?の説、とは言え・・・。)
皆さん一生懸命演じていらしたところは、すごく好感が持てましたよ。
新宿の広場に大きなテントをかけて、テント内での上演だったので、フィナーレでテントの幕を上げると、外の通行人がそのまま劇の背景になって、それは新鮮な感覚でオオ〜!って思いました。
要するに、脚本が私にはあまり気に入らなかったのですよね。

ところで、キャッチした漱石関係の演劇はたいてい観に行くようにしていますが、私は東京に住んでいますのでけっこうあるんですよ。
漱石関係の演劇のマイ・ベストスリーは
『こころ』:加藤剛主演の正統派劇(古い!)
『赤シャツ』:マキノノゾミ脚本。坊っちゃんの出て来ない『坊っちゃん』劇で、主人公は悩めるインテリの赤シャツです。裏から見たような感じが、とってもおかしい!
『新明暗』:永井愛脚本。『明暗』を現代の夫婦に焼き直したもの。確かお延がフードコーディネーターか何かになっていました。ウジウジグズグズ悩む夫の津田は、現代の草食系男子そのもの。佐々木蔵之介がなかなかのハマリ役でした。

HPやブログなどは、キカイ音痴の私にはとうてい無理です。
画像をふんだんに取り入れて、マルチに好奇心がおありのKOYAMAさんならではのこの『猫』ブログ、本当に素晴らしいです!
楽しみに拝見していますので、これからもよろしく!
ミモザ | 2009/08/25 1:16 AM
感想、ありがとうございます。これで少しスッキリしました。

『ねこになった漱石』、NHKBS2深夜の舞台中継でやってくれると嬉しいんですけどねぇ。
世代的に、スナフキン声優として尊敬する西本氏を久しぶりに観たい気がする…。

あと…ちょっと誤解があるようですが、このブログの書き込みは全て最初は“非表示”になるんです。拒否じゃないんですよ。
今わたくし (J・KOYAMA) が書いたこのコメントも、あとで管理者ページに行き自ら“表示”にする一手間が要るわけで。
サイトを作ってくれたしろねこ師匠の、ヘンな迷惑書き込み予防対策というわけです。了解下さい。

わたくしは運よくこのような展開が出来ましたが、ミモザさん以上にキカイ音痴だと思います。自分ではサイトを立ち上げることなぞ不可能なんで…。
ミモザさんも今後、蓄積したものを放出する時期がきっと来ますよ。その時はぜひご一報を。

今後も当ブログは続きますので、こちらこそどうぞ宜しく !
J・KOYAMA | 2009/08/27 10:13 AM
管理者の承認待ちコメントです。
- | 2010/07/09 9:22 AM
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