「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第二》 二人で散歩に


画/司 修


 寒月君はもういい加減な時分だと思ったものか「どうもよい天気ですな、お暇ならごいっしょに散歩でもしましょうか、旅順が落ちたので市中は大変な景気ですよ」と促してみる。
 主人は旅順の陥落より女連れの身元を聞きたいという顔でしばらく考えこんでいたが、ようやく決心をしたものとみえて「それじゃ出るとしよう」と思い切って立つ。やはり黒木綿の紋付羽織に、兄のかたみとかいう二十年来着古した結城紬(ゆうきつむぎ)の綿入れ(わたいれ)を着たままである。いくら結城紬が丈夫だって、こう着つづけではたまらない。所々が薄くなって日に透かして見ると裏からつぎを当てた針の目が見える。主人の服装には師走も正月もない。普段着もよそゆきもない。出るときは懐手(ふところで)をしてぶらりと出る。ほかに着る物がないからか、あっても面倒だから着替えないのか、吾輩にはわからぬ。ただしこれだけは失恋のためとも思われない。


「旅順が落ちた」
【日露戦争】1905年1月1日に旅順要塞のロシア軍司令官ステッセル中将が降伏した、旅順陥落のこと。



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