「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第二》 タカヂアスターゼ



 細君が袋戸の奥からタカヂアスターゼを出して卓の上に置くと、主人は「それは利かないから飲まん」という。
「でもあなた、デンプン質のものには大変功能があるそうですから、召し上がったらいいでしょう」と飲ませたがる。
「デンプンだろうがなんだろうが駄目だよ」と頑固に出る。
「あなたはほんとにあきっぽい」と細君がひとりごとのように言う。
「あきっぽいのじゃない。薬が利かんのだ」
「それだってせんだってじゅうは大変によく利くよく利くとおっしゃって毎日毎日召し上がったじゃありませんか」
「こないだうちは利いたのだよ、この頃は利かないのだよ」と対句(ついく)のような返事をする。
「そんなに飲んだりやめたりしちゃ、いくら功能のある薬でも利く気遣いはありません、もう少ししんぼうがよくなくっちゃあ胃弱なんぞはほかの病気たあ違って治らないわねえ」と、お盆を持って控えたおさんを顧みる。
「それは本当のところでございます。もう少し召し上がってごらんにならないと、とてもよい薬か悪い薬かわかりますまい」と、おさんは一も二もなく細君の肩を持つ。
「なんでもいい、飲まんのだから飲まんのだ、女なんかになにがわかるものか、黙っていろ」
「どうせ女ですわ」と細君がタカヂアスターゼを主人の前へ突きつけて、ぜひ詰め腹を切らせようとする。主人はなんにも言わず立って書斎へ入る。細君とおさんは顔を見合わせてにやにやと笑う。



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