「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
<< April 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>

《第三》 天然居士


画/下高原千歳

 主人はまた行を改める。彼の考えによると、行さえ改めれば詩か賛か語か録かなんかになるだろうと、ただあてもなく考えているらしい。やがて「天然居士は空間を研究し、論語を読み、焼き芋を食い、鼻汁(はな)を垂らす人である」と言文一致体で一気呵成(いっきかせい)に書き流した。なんとなくごたごたした文章である。
 それから主人はこれを遠慮なく朗読して、いつになく「ハハハハ。おもしろい」と笑ったが「鼻汁(はな)を垂らすのは、ちと酷だから消そう」とその句だけへ棒を引く。一本ですむところを二本引き三本引き、きれいな平行線を書く。線がほかの行まではみ出しても構わず引いている。線が八本並んでも後の句ができないとみえて、今度は筆を捨ててヒゲをひねってみる。文章をヒゲからひねりだしてご覧にいれますという剣幕で、猛烈にひねってはねじ上げ、ねじ下ろしているところへ、茶の間から細君が出て来てぴたりと主人の鼻の先へ座る。


「詩か賛か語か録」
漢詩文のいろいろな様式をあげ、四三五六に語呂を合わせたしゃれ。落語『一目上り』に使われている。



第三章 CHAP.3 | permalink | comments(0) | - | - | - |
【前のページ】<< 《第三》 筆太に | 【TOP】 |《第三》 ジャムを幾罐 >>【次のページ】



この記事に対するコメント

コメントする










RECENT COMMENTS
MOBILE
qrcode
PROFILE