「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第三》 主人の中座


画/司 修

 計らずも迷亭先生の接待係を命ぜられて無愛想な顔もしていられないから、ニャーニャーと愛嬌をふりまいて膝の上へ這い上がってみた。すると迷亭は「イヨー、だいぶ肥ったな、どれ」と無作法にも吾輩のえりがみをつかんで宙へつるす。「後足をこうぶら下げては、ネズミは取れそうもない、……どうです奥さん、この猫はネズミをとりますかね」と吾輩ばかりでは不足だとみえて、隣の部屋の細君に話しかける。
「ネズミどころじゃございません。お雑煮を食べて踊りをおどるんですもの」と細君はとんだところで旧悪を暴く。吾輩は宙乗りをしながらも少々きまりが悪かった。迷亭はまだ吾輩をおろしてくれない。
「なるほど。踊りでもおどりそうな顔だ。奥さん、この猫は油断のならない相好(そうごう)ですぜ。昔の草双紙(くさぞうし)にある猫又(ねこまた)に似ていますよ」と勝手な事を言いながら、しきりに細君に話しかける。細君は迷惑そうに針仕事の手をやめて座敷へ出てくる。
「どうもお退屈様。もう帰りましょう」と、茶をつぎかえて迷亭の前へ出す。


「草双紙」
江戸中期以降に流行した大衆的な絵入り小説本の総称。各ページに挿し絵があり、多くはひらがなで書かれた。ふつう、大半紙半截(はんせつ)二つ折り、1巻1冊5丁(10ページ)で、数冊を1部とする。表紙の色によって赤本・黒本・青本・黄表紙と区別し、長編で合冊したものを合巻(ごうかん)と称した。狭義には合巻だけをいうこともある。絵双紙。



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