「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第三》 細君と迷亭


画/吉崎正巳

「どこへ行ったんですかね」
「どこへ参るにも断わって行った事の無い男ですからわかりかねますが、おおかたお医者へでも行ったんでしょう」
「甘木さんですか、甘木さんもあんな病人に捕まっちゃ災難ですな」
「へえ」と細君は挨拶のしようもないとみえて簡単な答えをする。
 迷亭はいっこう頓着しない。「近頃はどうです、少しは胃の加減がいいんですか」
「いいか悪いかとんとわかりません、いくら甘木さんにかかったって、あんなにジャムばかりなめては胃病の治る訳がないと思います」と細君は先刻の不平を暗に迷亭にもらす。
「そんなにジャムをなめるんですか。まるで子供のようですね」
「ジャムばかりじゃないんで。この頃は胃病の薬だとかいって大根おろしをむやみになめますので……」
「驚いたな」と迷亭は感嘆する。
「なんでも大根おろしの中にはジャスターゼ(消化酵素)があるとかいう話を新聞で読んでからです」
「なるほど。それでジャムの損害を償おうという趣向ですな。なかなか考えていらあ。ハハハハ」と迷亭は細君の訴えを聞いておおいに愉快な気色(けしき)である。



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