「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第三》 煙管の軍配団扇


画/村上豊

「実は方々からくれくれと申しこみはございますが、こちらの身分もあるものでございますから、めったなとこへも片づけられませんので……」
「ごもっともで」と迷亭はようやく安心する。
「それについて、あなたにうかがおうと思って上がったんですがね」と鼻子は主人の方を見て急にぞんざいな言葉に返る。「あなたの所へ水島寒月という男がたびたび上がるそうですが、あの人は全体どんな風な人でしょう」
「寒月の事を聞いてなんにするんです」と主人は苦々しく言う。
「やはりご令嬢のご婚儀上の関係で、寒月君の性行の一部分をご承知になりたいという訳でしょう」と迷亭が機転を利かす。
「それがうかがえれば大変都合がよろしいのでございますが……」
「それじゃ、ご令嬢を寒月におやりになりたいとおっしゃるんで」
「やりたいなんてえんじゃ無いんです」と鼻子は急に主人を参らせる。「ほかにもだんだん口が有るんですから、無理にもらっていただかないだって困りゃしません」
「それじゃ寒月の事なんか聞かんでもいいでしょう」と主人も躍起となる。
「しかしお隠しなさる理由もないでしょう」と鼻子も少々喧嘩腰になる。
 迷亭は双方の間に座って、銀煙管(ぎんギセル)を軍配団扇(ぐんばいうちわ)のように持って、心のうちで『はっけよいや よいや』と怒鳴っている。



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