「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第四》 金田君一家


画/近藤浩一路

 忍びこむ度が重なるにつけ、探偵をする気はないが自然金田君一家の事情が見たくもない吾輩の目に映じて、覚えたくもない吾輩の脳裏に印象を留むるに至るのはやむをえない。鼻子夫人が顔を洗うたんびに念を入れて鼻だけ拭く事や、富子令嬢が阿倍川餅(あべかわもち)をむやみに召し上がらるる事や、それから金田君自身が――金田君は細君に似合わず鼻の低い男である。単に鼻のみではない、顔全体が低い。子供の時分ケンカをして、ガキ大将のために首筋を捉まえられて、うんと精一杯に土塀へおしつけられた時の顔が四十年後の今日(こんにち)まで因果をなしておりはせぬかと怪しまるるくらい平坦な顔である。しごく穏やかで危険のない顔には相違ないが、なんとなく変化に乏しい。いくら怒ってもたいらかな顔である。――その金田君がマグロの刺身を食って自分で自分のハゲ頭をぴちゃぴちゃ叩く事や、それから顔が低いばかりでなく背が低いので、むやみに高い帽子と高い下駄をはく事や、それを車夫がおかしがって書生に話す事や、書生が、なるほど君の観察は機敏だと感心する事や、―― 一々数え切れない。



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