「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第五》 猫の恋



 ほのかに承われば世間には猫の恋(春の季語)とか称する俳諧(はいかい)趣味の現象があって、春さきは町内の同族どもの夢、安からぬまで浮かれ歩く夜もあるとかいうが、吾輩はまだかかる心的変化に遭遇した事はない。そもそも恋は宇宙的の活力である。上(かみ)は在天の神ジュピターより、下(しも)は土中に鳴くミミズ、おけらに至るまで、この道にかけて浮き身をやつすのが万物の習いであるから、吾輩どもが朧(おぼろ)うれしと、物騒な風流気を出すのも無理のない話である。回顧すればかくいう吾輩も三毛子に思い焦がれた事もある。三角主義の張本たる金田君の令嬢 阿倍川の富子さえ、寒月君に恋慕したという噂である。それだから千金の春宵(しゅんしょう)を心も空に満天下の雌猫雄猫(めねこおねこ)が狂いまわるのを煩悩の迷いのと軽蔑する念は毛頭ないのであるが、いかんせん誘われてもそんな心が出ないからしかたがない。



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