「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
<< November 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>

《第五》 夜更けの物音


映画(1936) より

 台所の雨戸にトントンと二へんばかり軽くあたったものがある。はてな、今頃人の来るはずがない。おおかた例のネズミだろう、ネズミならとらん事にきめているから勝手にあばれるがよろしい。
 ――またトントンとあたる。どうもネズミらしくない。ネズミとしても大変用心深いネズミである。主人のうちのネズミは、主人の出る学校の生徒のごとく日中でも夜中でも乱暴狼藉の練習に余念なく、憫然(びんぜん/あわれむべきさま)なる主人の夢を驚破(きょうは)するのを天職のごとく心得ている連中だから、かくのごとく遠慮する訳がない。今のはたしかにネズミではない。せんだってなどは主人の寝室にまで闖入(ちんにゅう)して、高からぬ主人の鼻の頭を咬んで凱歌(がいか)を奏して引き上げたくらいのネズミにしてはあまり臆病すぎる。決してネズミではない。
 今度はギーと雨戸を下から上へ持ち上げる音がする。同時に腰障子をできるだけゆるやかに、溝に添うてすべらせる。
 いよいよネズミではない。人間だ。



第五章 CHAP.5 | permalink | comments(0) | - | - | - |
【前のページ】<< 《第五》 眠る苦沙弥一家2 | 【TOP】 |《第五》 泥棒陰士 >>【次のページ】



この記事に対するコメント

コメントする










RECENT COMMENTS
MOBILE
qrcode
PROFILE