「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
<< November 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>

《第五》 泥棒陰士


映画(1975) より

 この深夜に人間が案内も乞わず戸締まりをはずして御光来になるとすれば、迷亭先生や鈴木君ではないにきまっている。御高名だけはかねて承わっている泥棒陰士(どろぼういんし)ではないかしらん。いよいよ陰士とすれば早く尊顔を拝したいものだ。陰士は今や勝手の上におおいなる泥足を上げて二足ばかり進んだ模様である。三足目と思う頃、揚げ板につまずいてか、ガタリと夜に響くような音を立てた。吾輩の背中の毛が靴刷毛(くつばけ)で逆にこすられたような心持ちがする。しばらくは足音もしない。細君を見るとまだ口をあいて太平の空気を夢中に吐呑(とどん)している。主人は赤い本に親指を挟まれた夢でも見ているのだろう。やがて台所でマッチをする音が聞こえる。陰士でも吾輩ほど夜陰に目は利かぬと見える。勝手が悪くてさだめし不都合だろう。



第五章 CHAP.5 | permalink | comments(0) | - | - | - |
【前のページ】<< 《第五》 夜更けの物音 | 【TOP】 |《第五》 泥棒陰士2 >>【次のページ】



この記事に対するコメント

コメントする










RECENT COMMENTS
MOBILE
qrcode
PROFILE