「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第五》 泥棒陰士3


画/柳井愛子

 吾輩はこの間に早く主人夫婦を起こしてやりたいものだとようやく気がついたが、さてどうしたら起きるやらいっこう要領を得ん考えのみが頭の中に水車の勢いで回転するのみで、なんらの分別も出ない。
 布団の裾をくわえて振ってみたらと思って、二、三度やってみたが少しも効用がない。
 冷たい鼻を頬にすりつけたらと思って主人の顔の先へ持っていったら、主人は眠ったまま手をうんと延ばして、吾輩の鼻づらをいやと言うほど突き飛ばした。鼻は猫にとっても急所である。痛む事おびただしい。
 今度はしかたがないからニャーニャーと二へんばかり鳴いて起こそうとしたが、どういうものかこの時ばかりはのどに物がつかえて思うような声が出ない。やっとの思いで渋りながら低い奴を少々出すと驚いた。肝心の主人は覚める気色(けしき)もないのに突然陰士の足音がし出した。ミチリミチリと縁側を伝って近づいて来る。いよいよ来たな、こうなってはもう駄目だと諦めて、ふすまと柳行李(やなぎごうり)の間にしばしの間、身を忍ばせて動静をうかがう。



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