「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第五》 泥棒陰士4


画/司 修

 陰士の足音は寝室の障子の前へ来てぴたりとやむ。吾輩は息を凝らして、この次は何をするだろうと一生懸命になる。後で考えたが、ネズミをとる時はこんな気分になれば訳はないのだ。魂が両方の目から飛び出しそうな勢いである。陰士のおかげで二度とない悟りを開いたのは実にありがたい。たちまち障子の桟(さん)の三つ目が雨に濡れたように真ん中だけ色が変わる。それを透かして薄紅(うすくれない)なものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて赤い舌がぺろりと見えた。舌はしばしの間に暗い中に消える。入れ代わってなんだか恐しく光るものが一つ、破れた穴の向こう側にあらわれる。疑いもなく陰士の目である。妙な事にはその目が、部屋の中にある何物をも見ないで、ただ柳行李の後ろに隠れていた吾輩のみを見つめているように感ぜられた。一分にも足らぬ間ではあったが、こうにらまれては寿命が縮まると思ったくらいである。もう我慢できんから行李の影から飛び出そうと決心した時、寝室の障子がスーと開いて待ち兼ねた陰士がついに眼前にあらわれた。



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