「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
<< January 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

《第六》 主人は午睡



「時にご主人はどうしました。あいかわらず午睡(ひるね)ですかね。午睡も支那人の詩に出てくると風流だが、苦沙弥君のように日課としてやるのは少々俗気がありますね。なんの事あない、毎日少しずつ死んでみるようなものですぜ。奥さん、お手数だがちょっと起こしていらっしゃい」と催促すると細君は同感とみえて「ええ、ほんとにあれでは困ります。第一あなた、からだが悪くなるばかりですから。今ごはんをいただいたばかりだのに」と立ちかけると迷亭先生は「奥さん。ごはんといやあ、僕はまだごはんをいただかないんですがね」と平気な顔をして聞きもせぬ事を吹聴(ふいちょう)する。
「おやまあ、時分どきだのにちっとも気がつきませんで――それじゃ、何もございませんがお茶漬けでも」
「いえ、お茶漬けなんかちょうだいしなくってもいいですよ」
「それでもあなた、どうせお口に合うようなものはございませんが」と細君少々厭味を並べる。
 迷亭は悟ったもので「いえ、お茶漬けでもお湯漬けでもごめんこうむるんです。今、途中で御馳走をあつらえてきましたから、そいつをひとつここでいただきますよ」と、とうてい素人にはできそうもない事を述べる。
 細君はたった一言「まあ!」と言ったが、その『まあ』のうちには、驚いた『まあ』と、気を悪くした『まあ』と、手数が省けてありがたいという『まあ』が合併している。



第六章 CHAP.6 | permalink | comments(0) | - | - | - |
【前のページ】<< 《第六》 ハーキュリスの牛2 | 【TOP】 |《第六》 迷亭のパナマ帽 >>【次のページ】



この記事に対するコメント

コメントする










RECENT COMMENTS
MOBILE
qrcode
PROFILE