「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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《第九》 主人はあばた面4



 もっとも主人はこの功徳を施こすために顔一面に疱瘡(ほうそう)を種(う)えつけたのではない。これでも実は種(う)え疱瘡(種痘のこと。天然痘ワクチン)をしたのである。不幸にして腕に種えたと思ったのが、いつの間にか顔へ伝染していたのである。その頃は子供の事で今のように色気もなにもなかったものだから、痒い痒いと言いながらむやみに顔中ひっかいたのだそうだ。ちょうど噴火山が破裂して溶岩が顔の上を流れたようなもので、親が生んでくれた顔を台なしにしてしまった。主人は折々細君に向かって『疱瘡をせぬうちは玉のような男子であった』と言っている。『浅草の観音様で西洋人が振り返って見たくらいきれいだった』などと自慢する事さえある。なるほど、そうかもしれない。ただ誰も保証人のいないのが残念である。


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