「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
<< May 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

《第十》 空腹になって参った2



 吾輩はたまらなくなって台所へ這い出した。まずへっつい(かまど)の影にある鮑貝(あわびがい)の中をのぞいてみると、案に違(たが)わず、夕べなめ尽くしたままひっそりと静まりかえって、怪しき光が引き窓をもる初秋の陽射しにかがやいている。おさんはすでに炊きたての飯をお櫃(おはち/おひつ)に移して、今や七輪にかけた鍋の中をかきまぜつつある。釜の周囲には沸き上がって流れだした米の汁がカサカサに幾筋となくこびりついて、あるものは吉野紙を貼りつけたごとくに見える。もう飯も汁もできているのだから食わせてもよさそうなものだと思った。こんな時に遠慮するのはつまらない話だ。よしんば自分の望み通りにならなくったって元々で損はいかないのだから、思い切って朝飯の催促をしてやろう。いくら居候の身分だってひもじいに変わりはない。と、考えさだめた吾輩は、にゃあにゃあと甘えるごとく、訴うるがごとく、あるいはまた怨(えん)ずるがごとく鳴いてみた。


第十章 CHAP.10 | permalink | comments(0) | - | - | - |
【前のページ】<< 《第十》 空腹になって参った | 【TOP】 |《第十》 御多角 >>【次のページ】



この記事に対するコメント

コメントする










RECENT COMMENTS
MOBILE
qrcode
PROFILE