「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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吾輩のガラについて

吾輩はシマ猫である。cat1
写真は、しろねこ家のキジトラ猫・カイゴン

 
漱石の次男に伸六という人がいるのですが、この方が、『猫の墓 父・漱石の思い出』というエッセイを出版されているのです。
(今回参考にしたのは、河出文庫 昭和59年2月4日初版発行版。単行本としては、文藝春秋新社より昭和35年に初版発行)



その本の冒頭で、吾輩のモデルになった猫の柄(ガラ)について考察されています。曰く――

 牛込の榎町から、都電の柳町の停留場へ通じる広い道路を右へ折れ、馬場下の穴八幡へ抜ける狭いだらだら坂を降りてから、再びゆるい坂道を登って行くと、右側に、いかにも殺風景な二階建ての都営アパートが二列に並んで建っている。
 その入り口に当たる道路ぎわに、なかば横に傾きかけた細い角材の標柱が建っていて、表には『史蹟 漱石山房趾』と書いてあるのだが、すでに十年の風雪にさらされた表記の文字は、じっと顔を寄せて眺めても、ほとんどそれと判読しがたいほどに薄れている。
 この敷地の東寄りの一画に、ぼろぼろに周囲の欠け落ちた九層の石塔が、ここだけはよく手入れのゆき届いた青い植木にかこまれて、旧態のごとく保存されている。そうして柵を結い、白い小砂利を敷きつめたその内側には「新宿区文化財」として、この墓は「小説『吾輩は猫である』の主人公になった三毛猫の墓である」と書かれた立て札が立っている。

―― 中略 ――

 ところで初代の猫の毛並みだが、新宿区の文化財保護委員はどこから割り出したものか、至極簡単にこれを三毛猫と断定しており、父自身の表現では、
「ペルシア産の猫のごとく黄を含める淡灰色に、漆のごとき斑入りの皮膚を有している」
 と、これまた結構豪勢な毛衣を着用している事になっているが、私の母の記憶では、
「あら、ちょうどうちの『お母ちゃん』(この会話の当時、漱石の妻・鏡子が飼っていた猫)とそっくりよ」
 というのが、どうやら一番その真相に近いらしく、つまり、やたらとそこらへんにうろちょろとしている、いわば駄猫の標本にも等しい単なる縞猫(しまねこ)に過ぎなかったらしい。

ってことはつまり、シマ猫、ですか?
アメリカンショートヘアやキジトラみたいなシマ猫ですか?
いや、そりゃたしかに猫初版の挿絵とか、全部シマ猫で、なんでシマ猫なんじゃろ、とずっと疑問だったんですが……。

でもねえ、現代的な語感でいくと、『斑入り』というのはブチ猫なんですよねえ、、、。

【広辞苑】
■斑(ふ)―― ぶち。まだら。斑点。
■斑入り ―― 地の色と違う色が、まだらに混じっていること。


角川文庫版表紙(わたせせいぞう氏・画)の「猫」みたいなね、薄汚れた白地に焦げ茶のぶち模様の猫を想像しちゃう「語」のイメエジなわけですよ。

吾輩2
角川文庫 昭和62年6月10日 改版56版


が、漱石の次男氏がなんのためらいもなく「縞猫」と断言してるんで、「うーむ、こりゃなにかドツボにハマってるぞ」と調べてみました。漢文に造詣の深かった漱石のことですから、漢文系かもしれぬ、と。
したらば――
あったんですよ、、、、、(涙)

【新字源】(漢和辞典)
■斑(ハン)―― ぶち。色のまじること。


まあ、語の解説としては、広辞苑とさほど変わらないんですが、用例にね、こんなのが、

虎斑(こはん)―― 虎のように、黄褐色の地に太く黒いしまのある毛並みや模様。虎斑(とらふ)。

つまり、キジトラみたいな猫ですか、、?
こんなん↓ですか?

cat2


一言言わせていただいていいですか。
漱石先生、「虎斑入りの猫」と書いて欲しかったです!



【追記】
三毛猫は、基本的にメス猫しか存在してないんで、新宿区の想定はへんてこりんですよねー。(まれにオスの三毛猫もいますが、その場合、性染色体がダブルエックスワイ(XXY)で、いわゆる奇形とされ、生殖能力はありませぬ)
でもコレは、昭和35年当時での記述であって、現在の新宿区は漱石関連史跡をリニューアルしまくってるので、猫の墓等も夏目伸六氏によって書かれた昭和35年当時の状態とは異なっております。

現在では、夏目伸六氏の記述通り、『猫塚は犬、猫、文鳥共用であったこと』が表記され、『三毛猫』の表記は削除済み。

ちなみに、漱石公園にある猫塚は昭和28年の復元品で、本物の猫塚の中にあった猫の骨は、妻・鏡子によって、雑司ヶ谷の漱石の墓地に移されているそうです。


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