「吾輩は猫である」

  挿画でつづる漱石の猫 I AM A CAT illustrated
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『GO!GO!アッキーナ』で「猫」 [2]



上の写真だけ見るとオチャラケていて、本サイトをご覧になられる真面目な漱石ファンの逆鱗に触れそうなれども、的を得たダイジェストと解説で捨てたもんじゃなかったです。
こういうところから「猫」世界に触れてみようか、という人も出てくるはずなのでね。本サイトは挿画付きで読みやすいですし、そういう方の一助になれば望外の喜びであります。

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『GO!GO!アッキーナ』で「猫」 [1]



人気グラビアアイドル南明奈といろんな放送作家のコラボ番組『GO!GO!アッキーナ』。この日は“クイズ文学の館”なる趣向で、「猫」も取り上げられていました。
出題者は岸部シロー(四郎) !
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最新「猫」関連芝居 『ねこになった漱石』 [3]


物語はこんな風に始まるらしいです。公演後2か月ほど経ったのに、わたくしのチェックが甘いのか、評判を見聞きしませんがいかなる出来だったんでしょう。
NHKBS2の舞台中継あたりで放送してくれると有り難いんですけどね。
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最新「猫」関連芝居 『ねこになった漱石』 [2]



雑誌「テアトロ」6月号(カモミール社刊)に載った台本より。
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最新「猫」関連芝居 『ねこになった漱石』 [1]

オオッと、こんな芝居が明日から !




東京ギンガ堂オフィシャルホームページ
http://www.tokyo-gingado.com/
映画『吾輩は猫である』(1975)で甘木医師を演じておられた西本裕行氏も出演されているようです。ゲストで登場の歌手・夏目ひみかという方は漱石直系の玄孫(げんそん=やしゃご)なんですと。恐るべし、文豪の血縁 !
ちょっと観に行けそうもありませんが…ミモザさん、もしご覧になられたら感想の書き込みをよろしくお願い致します。
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いわゆる「猫」パロディ本について

ご存じの通り「猫」の大ヒットによってその亜流・パロディ本は世に溢れた。このあたりは時代が変わっても今もよくある話。



自分が改めて「猫」に興味を持ったのは、横田順彌氏が古本エッセイで「猫」のパロディ本を取り上げていたのがきっかけであった。
上は「漱石全集第一巻」(1993 岩波書店)の月報1に掲載された総括的なエッセイ“吾輩たちも『吾輩』である”の一部である。パロディ本の書影が掲載されているのが有難い。
ここで横田氏は明治・大正期の「猫」パロディ本について分類をしている。

[1]漱石の「猫」のその後を書いたもの。
[2]猫は登場するが漱石の「猫」とは無関係のもの。
[3]人間を含む猫以外の動物が語り手。
[4]それ以外のもの。
この4つがさらに小説とノンフィクション(解説書)に分かれる。

さらに別分類として、
[A]タイトルだけパロディ、中身は別物。
[B]タイトルは別だが中身がパロディ。
[C]タイトルも中身もパロディ(贋作)。
…としている。



上は小田切靖明・榊原鳴海堂「夏目漱石の研究と書誌」(2002 ナダ出版センター)収録の“擬態本(パロディ)書誌”の一部。1907年、「猫」発表の翌年から2001年までをリストアップし戦前の作品には書き出しが再録されている労作、興味のある方は是非ご一読を。
個人的には…蓑村雨男「漱石の猫は吾輩である」(大正9年 1920)という本のタイトルはケッサクですな。死んだ猫が棺桶の中で蘇生するところから始まる後日談らしいですよ。
なんでこんな事を今ごろ草したかというと、6月4日付日経朝刊で下のような新聞広告を見たからなんですね。タイトルはともかく、オビの“肉球入魂 ! ”はケッサクな惹句ですな。



書き出しにしてタイトルにもなった「吾輩は猫である」というフレーズが書かれて100年後、いまだにモジリ・パロディの対象になるとはちょっと驚異的であります。

それと…上記文献では活字本に限って紹介していますが、映画やドラマのタイトル、マンガやアニメのサブタイトルを遡れば、そこにも多くの「猫」パロディが発見できると思います。
マルクス兄弟の、映画史に残る戦争風刺喜劇 "DUCK SOUP"(1933)の邦題『我輩はカモである』とか、漱石が乗り移った主婦(斉藤由貴…スゴイ設定 ! )が主役の宮藤官九郎脚本昼ドラマ『吾輩は主婦である』とか、タアモ作のマンガ「吾輩は嫁である。」(フラワーコミックス刊)とかね。
こっちも時間がある人は探してみてください。じゃ、また。
                       (J・KOYAMA)
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ミモザさんからの手紙(メールですけど)に答える

どうも、J・KOYAMAです。今回旅行中、ハンドルネーム・ミモザさんより感想とご指摘のメールをいただいていました。感激 ! ミモザさん詳しすぎ(笑) !
帰国して1週間、そろそろこれについて考えねばと思っておるのですがなかなかアタマが動きません。ここはブログの中でメールを引用させていただき、ご質問についてはひとつづつ分かった時点で記入していくという形式を取りたいと思います。ミモザさん、どうかご了承下さい。
そして今後とも当ブログをよろしくお願い致します。

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番外地『吾輩は猫である』のサイトは素晴しいもので、本当に感激して読みました。ありがとうございました!!
私も大の漱石ファンですので、少し気になったところをピックアップして、書いてみます。


(1) 2006.10.19:太田の池は何処にあったのか?についてですが、これは太田の池があったころ本郷に住んでいた方の自筆地図や森まゆみさんの「谷根千」にイラスト地図があります。

機会があったら見てみます。あの界隈にちょっとした大きさの池があったなんて、今は考えられませんね。


(2)2007.01.21:トリストラム・シャンディーが2005年映画化されたそうですが、どこで見ることが出来ますか? TSUTAYAに問い合わせたのですが、所蔵していないそうなのですが・・・。見たいです〜!

映画は日本未公開。海外版DVDがアマゾンで買えるようです、お試し下さい。



(3)2007.02.26:海水浴の図は、何処でしょうか? 大磯?? 鎌倉??

大磯と記憶しますが、参照した記事を発見できませんでした、スイマセン。

(4)2007.04.24:尼子四郎の『「猫」のモデル』という随筆、国会図書館にもないようなので、読めていません。お読みになりましたか?

全部は読んでおりません。一部が引用されている武田勝彦「漱石の東京」(1997 早稲田大学出版部)の参考文献リストによると、「近代作家追悼文集成第五巻 夏目漱石」(1987 ゆまに書房)に収録されておるようです、お試しを。


(5)2007.04.29:凱旋門は品川のにしては屋根の形が違うように思うのですが。【明治・大正・昭和東京写真大集成p276】どうも三越前の凱旋門のようですよ。【http://www.tanken.com/gaisenmon.html 日露戦争凱旋門を大観光化】


(6)2007.05.10:「別冊裁縫秘術綱要」まで見つけられるなんて、スゴイです!

…どうもありがとうございます(笑)。


(7)2007.07.10:ご掲載の五高卒業写真はホンモノは何処で見られますでしょうか? 私もこの写真はどこかで見た写真のような気はするのですが、どこで見たのか思い出せません。また、「枠内は漱石」となっていますが、漱石はその枠内の人ではなく、別人のような気がするのですが・・・。もう少し鮮明な写真で確かめて見たいのですが、何処で見ることが出来ますでしょうか? よろしければ、ご教示下さい。


(8)2007.09.03:漱石の『猫』10章の署名が「漱石」でなく「嗽石」となっていることについてですが、これは漱石の書き間違いではなく、虚子が書き加えて間違ったものです。私は、『野分』の漱石自筆原稿についての虚子自身の文章でそれを知りました。漱石自筆原稿の『野分』の「嗽石」署名は、虚子が書いたものだと虚子自身が文章に残しておりました。で、『猫』の「嗽石」署名も全く同じ筆跡ですから、やはり虚子の加筆と思われます。

作者名のところはもとは空欄で、虚子が書き足していたのですか。勉強になりました。


(9)2008.02.06:<第一高等学校の同僚・畔柳芥舟(くろやなぎかいしゅう)は本名を畔柳郁太郎といい、英文学教授でした>とあるのは 畔柳都太郎(クロヤナギクニタロウ)で「都」が正しいと思います。

岩波全集の誤植 ? はじめ、引用文献の誤字、結構多いです…。


(10)本、ネット、いろいろ駆使して作っていらっしゃると思うのですが、著作権などは、無料サイトだから、関係ないのですか? ああいう引用にも、著作者の許可が必要なのですか? ちょっと気になったもので、お伺い致します。

こっ、これは…しろねこ師匠、助けて !

漱石の本文以外はほとんどが、著作権的にはアウトです。ダメダメですね(苦笑)
営利目的ではないので、著作権者には「見なかったこと」にしていただく方針でひとつ。クレームには誠実に対応させていただく所存です。
とはいっても、デジタルデータな写真等はダウンロードして勝手に営利目的で二次利用される可能性もあるのが悩みどころなんですが……。
(by しろねこ)



(11)私は昭和11年の山本嘉次郎監督の『吾輩は猫である』のビデオを持っています。(ちなみに仲代達矢の『猫』、アニメの『猫』もビデオを持っています。映像化された漱石作品にも興味があり、出来るだけ集めるようにしています。舞台なども、出来うる限り観ています。) その付属の紙片に「山根貞男のお楽しみゼミナール」としてキャストが書いてありましたのでついでにご報告します。
迷亭..........徳川夢声
珍野苦沙弥.....丸山定夫
東風...........藤原釜足
多々良三平......宇留木浩
富子...........千葉早智子
苦沙弥の細君....英百合子
寒月...........北澤 彪
車夫...........西村楽天
鈴木藤十郎......御橋 公
金田............森野鍛治哉
博士夫人........伊藤智子
鼻子............清川玉枝
雪江............堀越節子
寒月夫人........宮野照子
女房............清川虹子

千葉早智子は富子の役のようですよ。これは映画の最初の方に主な配役の紹介があり、富子の画面で女優さんの千葉早智子の名前が出ていましたから、山根氏の間違いでは無いと思います。
でも、寒月夫人や博士夫人の俳優名なんてどうでもいいから、私的には、おさん(清)の役者名を、是非知りたかったですねえ。いい味出していましたもんね。


お持ちのビデオは新聞などで通販広告が出ていたキネマ倶楽部の日本映画傑作全集のものですね。出ていると気がついたときにはもう廃盤になっておりました。自分が初めて観たのはチャンネルNECO放送版で、オープニングの登場人物の紹介に役者名が入っていなかったんですよ。ニュープリント時に字ネガが紛失していたか、何か理由があったんでしょう。
ともあれ配役が判明して実に嬉しいです。


これからもどうぞいろいろ教えて下さい。
お答えをいただけると嬉しいです。

            ハンドルネーム:ミモザより

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いやいや、こちらが教えられることばかりです。どうか今後とも(お手柔らかに)応援よろしくお願い致しますです。

                   J・KOYAMA拝
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文鳥 [完]

「文鳥」は明治41年(1908)6月13日から6月21日まで大阪朝日新聞に9回にわたって毎日連載された。東京朝日新聞には連載されなかった。
初出には(一)〜(完)までの連載回数が記されている。署名は“漱石”。
その後雑誌「ホトトギス」(ほとゝぎす発行所刊)の明治41年10月1日発行・第十二巻第一号に再掲され、明治43年5月15日発行の単行本「四篇」(春陽堂刊)に収録された。
なお単行本「四篇」には“漱石近什(じゅう)”の角書きがある。
                       (J・KOYAMA)


[参考文献]

◆「少年少女世界文学全集38 現代日本名作集」 昭和40年
  (1965)講談社

◆「文鳥・夢十夜」 新潮文庫

◆「漱石全集 第十二巻」 平成6年(1994)岩波書店

◆「ねじ式」つげ義春 平成7年(1995)小学館文庫
  ※「チーコ」所収。

※「吾輩は猫である」の参考文献と重複するものは割愛しました。
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文鳥 [9 最終章]

 翌日(あくるひ)眼が覚めるや否や、すぐ例の件を思いだした。いくら当人が承知だって、そんな所へ嫁にやるのは行く末よくあるまい、まだ子供だからどこへでも行けと云われる所へ行く気になるんだろう。いったん行けばむやみに出られるものじゃない。世の中には満足しながら不幸に陥っていく者がたくさんある。などと考えて楊枝(ようじ)を使って、朝飯を済ましてまた例の件を片づけに出掛けて行った。



画/市川禎男

 帰ったのは午後三時頃である。玄関へ外套(がいとう)をかけて廊下伝いに書斎へ入るつもりで例の縁側へ出てみると、鳥籠が箱の上に出してあった。けれども文鳥は籠の底にそっくり返っていた。二本の足を硬く揃えて、胴と直線に伸ばしていた。自分は籠のわきに立って、じっと文鳥を見守った。黒い眼を眠(ねぶ)っている。まぶたの色は薄蒼(うすあお)く変わった。
 餌壺(えつぼ)には粟の殻ばかり溜まっている。啄(ついば)むべきは一粒もない。水入れは底の光るほど涸(か)れている。西へ廻った日が硝子戸を洩れて斜めに籠に落ちかかる。台に塗った漆は、三重吉の云ったごとく、いつの間にか黒味が脱けて、朱の色が出てきた。
 自分は冬の日に色づいた朱の台を眺めた。
 空(から)になった餌壺を眺めた。
 空(むな)しく橋を渡している二本の留り木を眺めた。
 そうしてその下に横たわる硬い文鳥を眺めた。
 自分はこごんで両手に鳥籠を抱えた。そうして、書斎へ持って入った。十畳の真ん中へ鳥籠をおろして、その前へかしこまって、籠の戸を開いて、大きな手を入れて、文鳥を握って見た。柔かい羽根は冷えきっている。



鈴木三重吉の住所は猫の死亡通知時のものです。

 拳(こぶし)を籠から引き出して、握った手を開けると、文鳥は静かにてのひらの上にある。自分は手を開けたまま、しばらく死んだ鳥を見つめていた。それから、そっと座布団の上におろした。そうして、はげしく手を鳴らした。
 十六になる小女(こおんな)が、はいと云って敷居際(しきいぎわ)に手をつかえる。自分はいきなり布団の上にある文鳥を握って、小女の前へ放り出した。小女はうつむいて畳を眺めたまま黙っている。自分は、餌(え)をやらないから、とうとう死んでしまったと云いながら、下女の顔をにらめつけた。下女はそれでも黙っている。
 自分は机の方へ向き直った。そうして三重吉へはがきをかいた。「うちのものが餌をやらないものだから、文鳥はとうとう死んでしまった。たのみもせぬものを籠へ入れて、しかも餌をやる義務さえ尽くさないのは残酷の至りだ」と云う文句であった。
 自分は、これを投函(だ)して来い、そうしてその鳥をそっちへ持って行けと下女に云った。下女は、どこへ持って参りますかと聞き返した。どこへでも勝手に持って行けと怒鳴りつけたら、驚いて台所の方へ持って行った。




 しばらくすると裏庭で、子供が文鳥を埋めるんだ埋めるんだと騒いでいる。庭掃除に頼んだ植木屋が、お嬢さん、ここいらが好いでしょうと云っている。自分は進まぬながら、書斎でペンを動かしていた。
 翌日はなんだか頭が重いので、十時頃になってようやく起きた。顔を洗いながら裏庭を見ると、昨日植木屋の声のしたあたりに、小さい公札(こうさつ)が、蒼(あお)い木賊(とくさ)の一株と並んで立っている。高さは木賊よりもずっと低い。庭下駄をはいて、日影の霜を踏み砕いて、近づいて見ると、公札の表には、この土手登るべからずとあった。筆子(ふでこ)の手蹟である。



長女・夏目筆子(リボンのお嬢ちゃん、ちなみに右は小宮豊隆)の夫が漱石門下の小説家・松岡譲、夏目筆子の娘が随筆家の半藤末利子、半藤末利子の夫が随筆家の半藤一利、夏目筆子の娘が比較文学者松岡陽子マックレイン、松岡陽子マックレインの夫がロバート・マックレイン、松岡陽子マックレインの孫がAlejandro Alex Soseki McClain・・・優れた血は脈々と受け継がれておる。


 午後、三重吉から返事が来た。
 文鳥はかわいそうな事をいたしましたとあるばかりで、うちのものが悪いとも残酷だともいっこう書いてなかった。







〈完〉
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文鳥 [8]



 日数(ひかず)が立つにしたがって文鳥はよく囀(さえ)ずる。しかしよく忘れられる。ある時は餌壺(えつぼ)が粟(あわ)の殻だけになっていた事がある。ある時は籠の底が糞でいっぱいになっていた事がある。ある晩宴会があって遅く帰ったら、冬の月が硝子越しに差し込んで、広い縁側がほの明るく見えるなかに、鳥籠がしんとして、箱の上に乗っていた。その隅に文鳥の体が薄白く浮いたまま留り木の上に、あるか無きかに思われた。自分は外套(がいとう)の羽根を返して、すぐ鳥籠を箱のなかへ入れてやった。



画/谷口ジロー
この猫は“吾輩”のモデルになった猫であろう。この時はまだ元気だったようだが、「文鳥」連載後の明治41年(1908)9月13日の日曜日夜に死んだ。老衰で物置のへっついの上で死んでいたという。漱石は翌日門下生たちに猫の死亡通知を書き送った。


 翌日文鳥は例のごとく元気よく囀(さえず)っていた。それからは時々寒い夜も箱にしまってやるのを忘れることがあった。ある晩いつもの通り書斎で専念にペンの音を聞いていると、突然縁側の方でがたりと物の覆(くつがえ)った音がした。しかし自分は立たなかった。依然として急ぐ小説を書いていた。わざわざ立って行って、何でもないといまいましいから、気にかからないではなかったが、やはりちょっと聞き耳を立てたまま知らぬ顔ですましていた。その晩寝たのは十二時過ぎであった。便所に行ったついで、気がかりだから、念のため一応縁側へ廻って見ると――
 籠は箱の上から落ちている。そうして横に倒れている。水入れも餌壺(えつぼ)も引っくりかえっている。粟は一面に縁側に散らばっている。留り木は抜け出している。文鳥はしのびやかに鳥籠の桟(さん)にかじりついていた。自分は明日から誓ってこの縁側に猫を入れまいと決心した。



画/つげ義春

 翌日(あくるひ)文鳥は鳴かなかった。粟を山盛り入れてやった。水を漲(みなぎ)るほど入れてやった。文鳥は一本足のまま長らく留り木の上を動かなかった。午飯(ひるめし)を食ってから、三重吉に手紙を書こうと思って、二、三行書き出すと、文鳥がちちと鳴いた。自分は手紙の筆を留めた。文鳥がまたちちと鳴いた。出て見たら粟も水もだいぶん減っている。手紙はそれぎりにして裂いて捨てた。



画/谷口ジロー

 翌日、文鳥がまた鳴かなくなった。留り木を下りて籠の底へ腹をおしつけていた。胸の所が少し膨らんで、小さい毛が漣(さざなみ)のように乱れて見えた。自分はこの朝、三重吉から例の件で某所まで来てくれと云う手紙を受け取った。十時までにと云う依頼であるから、文鳥をそのままにしておいて出た。三重吉に逢ってみると例の件がいろいろ長くなって、いっしょに午飯(ひるめし)を食う。いっしょに晩飯(ばんめし)を食う。その上、明日の会合まで約束してうちへ帰った。帰ったのは夜の九時頃である。文鳥の事はすっかり忘れていた。疲れたから、すぐ床へはいって寝てしまった。
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単位変換一覧
  • 1尺 : 約30 cm

  • 1寸 : 約3 cm

  • 1分 : 約0.3 cm


  • 1町 : 約109m

  • 1間 : 約181.8 cm


  • 1斤 : 約600g


  • 1文 : 約2.4 cm

  • (足袋や靴など履物の大きさを表す単位)
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